湯河原海浜公園で起床!
寝袋から這い出ると、すぐ隣におじいちゃんが座っていた
とりあえず挨拶だ
「おはようございます~」
「おう、おはよう!どっから来たんだ?」
おじいちゃんは気さくにおしゃべりしてくれた
こんな怪しい寝袋に近づいてくれてありがとう
少し話していると、スピーカーからラジオ体操が流れてきた
15人ほどの人が集まって体操している
僕もしっかり参加した
荷物を片付けさあ出発!ってときにポツポツと雨が降ってきた
それほど強くはなかったので、荷物にカバーを被せて走り出す
少し走ると湯河原町から熱海市へ入り、ついに静岡県に突入だ
しかしこの伊豆半島、町と町の間は激しい峠道になっている
どこの半島もこんな感じなのか
雨降り+キツイ坂道ですぐにバテてしまい、マンションの前の駐車場で少し休もうとしたそのときだった
バキッ
「あっ!」
自転車から降りようとした足がドリンクホルダーにあたり、その衝撃で壊れてしまったのだ
なんてこった、さすが中国製の安物だ
うーん困った、なんとか直せないかと思案していると
「何か必要なものはあるかい?」
マンションの住人と思われる、エプロン姿のおねいさんが声をかけてくれたのだ
「コイツがちょっと、壊れちゃって」
「ああそうかい、ちょっと待ってて、なんか持ってくるから」
なんて親切な方なんだ
待っている間にアロンアルファで接着を試みたが、干からびてまったく出てこなかった
「お待ちどうさま、これでどうかしらねぇ」
おねいさんはビニールひもと、温かいほうじ茶、それにいくつかの食料まで持ってきてくれていた
「いいんですか?こんなにいただいちゃって」
「いいのいいの、持ってって!日本一周なんてうらやましいわ、私もやりたかった~」
おねいさんが若い頃は、よく仕事終わりに夜行列車で地方の山まで行き、一人登山を楽しんでいたという
「アウトドアは好きなんだけど、元々身体が強くなくてね、病気がちになってからはどこにも行けなくなっちゃったのよ」
健康に勝る宝はないのだと、改めて痛感させられる
おねいさんは真情を吐露するように
「いいな~、私は人間より自然が好きだから、自転車で日本一周してみたかったな~楽しそうだな~」
と言っていた
やりたいことがあっても、できない人がいる
やりたいことができる「今の自分」があるというのは、この上ない幸運なことのように思えた
「この先はもう少し坂道が続くけど、そのあとは熱海の町まで下りだから、気をつけて行ってらっしゃい!」
おねいさんは、僕の姿が見えなくなるまで、雨降りの中で傘もささずに、手を振ってくれていた
本当に、ありがとうございました
おねいさんの想いを背中に乗せて、日本一周、やり遂げます
おねいさんの言う通り、しばらく上ったらあとは長ーい下りが続いた
銃弾のような雨水が顔面に打ち付ける
「イデデデデ!」
たまらず屋根のあるところに避難した
長浜海浜公園というところに売店があり、おいしそうなみかんが格安で売られている
これ買ってみた(300円)
みかんの皮を柔らかく煮詰めて、砂糖でコーティングしたものだ
食べてみると、砂糖たっぷりで甘いのだが、ほんのりと皮の苦みが舌に残る
苦みのおかげでバクバクいけてしまうのだ
雨は次第に強くなり、とても走る気分にはなれなかった
いつ止むかわからない雨を見つめていると、赤いジャンパーを着た、明るい声のおねいさんが声をかけてくれた
「これからどこ行くの?」
「とりあえず伊豆半島をグルッと回ります」
「ヤァダっ!」
「寝るときはどうするの?」
「公園でテント張って寝ますよ」
「ヤァダっ!」
面白いリアクションだ
それからおねいさんは、自身のこれまでの人生を語ってくれた
樺太島で生まれたおねいさんは、小学校卒業までをそこで過ごした
冬の通学路は雪で覆われ、スキー板を履いて登校したという
成人してからは結婚した相手の地元で暮らすものの、飽きっぽい性格らしく、2度の離婚を経験した
49歳で再び人生のパートナーと出会うが、相手が脳梗塞を患い、後遺症で会話すらできなくなってしまったそうだ
波瀾万丈の人生を送り、現在84歳となったおねいさんは
「今がとっても幸せだし、後悔なんて一つもないよ」
と笑顔で言ってのけた
「失敗したなとその時は思ってもね、後になってから、あれも必要なことだったんだってきづくのさ」
う~む、とても深い話を聞かせていただいた
おねいさんと話しているうちに雨があがったので、別れを告げて走り始めた
すると湯気がもくもくと立ち込める建物を見つけた
「汐留の湯」という公衆浴場だった
中へ入ると、入口のすぐ隣に番台のおねいさんが座っていた
「いくらで入れますか?」
「250円だよ」
安っ!
さっそく風呂道具を自転車から持ってきて料金を支払う
ハンドタオルも無料で貸してくれた
脱衣所には九つの鍵つきロッカーと、鍵のかからない木造のロッカーが設置されていた
素っ裸になりいよいよ浴室へ向かう
中央に大きな浴槽が一つあり、その周りを洗い場が囲んでいる
洗い場といっても、シャワーや温度調節なんて女々しいものはついていない
プッシュ式の熱い湯が出る蛇口のみだ
天井を見ると水滴がびっしりついており、ぼたぼたと体に降ってきて冷たい
湯船の温度は42℃はありそうだ
熱めの湯にゆっくり肩までつかると、全身の疲れが溶け出していく
いや~気持ち良かった
恐らくここに観光客がくることは稀だろうな
体もあったまったところで服を着て外に出る
すると店の前には屋根つきのベンチがあるではないか
ここに寝られたら大助かりだな~
交渉してみよう
「実はまだ寝る場所を決めていなくて、そこのベンチを一晩貸していただけると助かるんですけど」
「いいけど、寒いと思うわよ、それに警察に声をかけられるかも」
「何があっても自分で責任を取りますので」
「そう、じゃあ好きにしなさい」
初めての野宿交渉は成功した
さっそく寝床をつくって寝る!
お休み!
#今日の一曲
島倉千代子
「人生いろいろ」
作詞:中山大三郎 作曲:浜口庫之助
“死んでしまおうなんて
悩んだりしたわ
バラもコスモスたちも
枯れておしまいと
髪を短くしたり
強く小指をかんだり
自分ばかり責めて
泣いてすごしたわ
ねぇおかしいでしょ 若いころ
ねぇ滑稽(こっけい)でしょ 若いころ
笑いばなしに 涙がいっぱい
涙の中に 若さがいっぱい
人生いろいろ 男もいろいろ
女だっていろいろ 咲き乱れるの”
人の数だけ歴史あり
僕の人生を一冊のノートにまとめたら、なるべく分厚いノートになるよう、生きていきたい
本日の走行距離
30キロ
本日の使用金額
870円
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